運命との戦い。その果てで……

 其れは曲げられぬ運命さだめであった。

 戦いは幾千、幾万もの昼と夜を越え、幾度となく続けられ、それでもただの一度として勝つ事は無かった。

 当然だ。

 彼が如何なる程の才気にあふれ、修練を積み、絶大な魔力を御し得たとしても勝てない。其れは神の定めたる法。即ち、運命というものだ。

 だから、その生涯は神との戦いであった。

 勝つ為には何でもした。あらゆる努力を惜しまなかった。敗北に敗北を重ね、幾度と無く倒れ、また幾度と無く立ち上がる。無限の連鎖。しかし、彼は諦める事を良しとしない。

 いや、確かに諦めかけた事もあった。

 所詮は神の創りたもうた創造物なれば、神の定めたる法に逆らう事など出来ぬのだ、と。戦いに挑むたびに彼の仲間は幾人と倒れていった。その中には、彼の愛した者もいた。

 心が折られ、挫けそうになる。その度に、敗北の屈辱を怒りへと、喪失の哀しみを憎悪へと換えて、己を奮い起こし立ち上がる。

 半ば意地になっていたのかもしれない。心の隅でそう気付きながらも、戦いを止めることは無かった。

 そして、これが結果だ。

 目前に倒れ付す敵を、見る。

 豪奢な鎧を貫き、心臓に突き立てられた剣。刀身は青白く光りながら、あたかも墓標である様に粛々と聳えている。

 傷口からはおびただしい量の血が流れ、開ききった瞳孔は最早何も映してはいない。

 死んでいた。間違いようも無い。

 廃墟となった城を、朝日が照らし出す。

 嗚呼。彼は此処に至ってようやく、長く深い溜息を吐いた。今までの、悠久とすら言える永き戦いの日々を思い出す。嗚呼。

 思い出の中では常に一瞬。雷光のように全てが思い出される。最初の仲間達と、勝利を誓ったシカ河のほとり。竜の背に乗り戦う白森の守護者。

 そして、全ての最後に立ちふさがった彼の敵、彼の運命。

 今、其れは遂に彼の目前に倒れ付している。

 祝福するように、朝日が彼を包み込む。

 胸に突き刺さった剣を抜く。

 剣は光の中で、さらさらと輪郭を崩していった。神法に逆らった代償か、最初から存在しなかったかのように薄く消えていく。

 これで、全てを失ったのだ。そう、気付いた。

「長かったなぁ、此処まで来るのに」

 もう一度だけ、目前に倒れた彼の敵、勇者を見下ろして。

 感慨深げに魔王は呟いた。

 余談だが、この一ヵ月後に世界は滅びたらしい。


あと書き

 創作者の交流と研鑽の場:クリエーターズネットワーク八月のテーマ企画『終戦』のために練った作品。

 どうも、最後にオチをつけるのが流行のようなので、ストンと。

 サブタイトル。『ある意味真の勇者』



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